3ヵ月にわたって展開されてきた應典院舞台芸術祭「space×drama2011」は、9月4日のコトリ会議との協働プロデュース公演をもって無事閉幕いたしました。幅広い方々のご関心、ご鑑賞を賜りましたこと、お礼申しあげます。
この事業は應典院が1997年に現在のかたちで再建した折に「舞台芸術祭」の名のとおり、多様な表現の機会を創出すべく開始したものですが、2003年からは現在のように演劇に焦点を当てた演劇祭にリニューアルされました。そして、若手劇団が切磋琢磨する機会を創出すべく、例年2月に全劇団が顔合わせをし、「制作者会議」を設置して、その年の運営のあり方を合議のもとで決定してきています。そのため、この演劇祭では例年、その年のメンバーならではの「味」が出ます。今年度も制作者会議での議論を経て、各種の工夫がなされたのですが、中でも、東日本大震災支援のための募金活動と、千羽鶴を折る場の提供、この2つは特に今年だからこそなされたことだと認識しています。
3月の東日本大震災を経て、一人ひとりの思いはささやかであっても、決してあの日を忘れないために、何かできないだろうか、それが7劇団共通の願いでした。そのため、募金については開演前と終演後に受付ロビーに設置され、劇団によっては物販等の売り上げの一部も含めて、企業メセナ協議会によるGBFund(東日本大震災芸術・文化による復興支援ファンド)に送ることとしています。また、千羽鶴については「あの日を忘れない」という劇団の願いを白布に記して呼びかけ、来場者の皆さん等に折っていただきました。時間が経つごとに、應典院のロビーには募金と折り鶴、そしてメッセージが増えていったのが実に印象的でしたが、今回折られた鶴は劇団員たちの手によって千羽鶴にされ、震災から1年を迎える来年3月に應典院で展示をする予定です。
ここに主催者を代表して、長きにわたる復興への道を歩んでいる東北を思う、ピンク地底人、プラズマみかん、コレクトエリット、激団しろっとそん、ミクロトゥマクロ、May、コトリ会議、この7劇団の思慮に、記して敬意を表します。それに加えて、演劇祭としては例年どおりに優秀劇団を選出し、今年の「コトリ会議」のように、次年度の協働プロデュース公演の座を獲得すべく、それぞれに創意工夫を凝らした表現にあたられたことも、ここに綴っておきます。そして、9月3日のクロージングトークの折に発表させていただいたとおり、史上初の2劇団が優秀劇団として選出されました。Mayとミクロトゥマクロの皆さん、おめでとうございます。
今年度の優秀劇団は9月1日に、2時間弱の時間をかけて、應典院寺町倶楽部の専門委員を中心にした選考会議により決定されました。今年は共通パスをお求めいただいた方が例年に比して多く、各劇団への高い関心が寄せられたのではないか、そうした事柄から、一つひとつの公演に対する劇評が述べられ、結果として2劇団が選出されることになったのです。とりわけ今回は「伸びしろ」と「劇団の味」について焦点が当てられたと感じています。伸びしろとは、これまでとこれからの変化への期待、そして劇団の味とは、その劇団ならではのテーマとスタイルの成熟度合いと言ってよいでしょう。それらを中心に総合的に議論した結果、前掲の2劇団に、来年のspace×dramaでも「見たい」、また「次の参加劇団に影響を与えて欲しい」、そして大阪市立芸術創造館での「大阪セレクション」など「他劇場での公演においてspace×dramaの優秀劇団として名を轟かせていただきたい」となったのです。
以下、公演順に、選考会議の議論の一部を記しておきましょう。まず、ピンク地底人「ある光」は、大阪では初となる公演の上、space×drama2011の皮切りとして、抽象度の高い世界観を、多様な表現から訴えたものとして一定評価が寄せられたのですが、劇団としてのさらなる団結力・集団力を高めた公演への期待がそれを上回りました。続いてプラズマみかんの「ワンコロが揺れ雲をめぐる冒険」は、16年前の神戸のまちでの個人的な原体験を作品として昇華させたことや、制作者会議における一定のイニシアティブも含めて、昨年からの連続参加における劇団としての成長を大いに実感できるところでしたが、客演の皆さんの好演を導いたように、今後、劇団の顔や色をさらに充実して欲しいという意見が出されました。コレクトエリットの「カミシメル」は、一連のアフタートークにおいても議論の俎上に載せられていたとおりに、表現したそうなことと表現できたことのあいだを、ぜひ丁寧に見つめながら、脚本と演技と演出のよい調和と意図としての不調和を導いていただければ、と願っております。また、激団しろっとそん「彼女に鎌を下すとき」は、二十歳前後の集団という若さが良い意味で際だちつつ、複数パターンのラストの用意など、お芝居を楽しんでいることが大いに伝わってくるものであり、だからこそ、今後のまとまりと広がりを楽しみにしたいといった意見にまとまりました。そして、ミクロトゥマクロの「ハネモノ/ブルーヘブン」は、端的な表現を用いるならば、演劇と音楽の「共存から共演へ」と「深化」を遂げた点に高い評価が重ねられ、今後の展開がどのようなものとなるのかを楽しみにしているところです。また、Mayの「夜にだって月はあるから」は、劇中劇が効果的に挿入され、歴史の厚みと物語の厚みを相乗効果で引き出していったものとして好感が寄せられたと共に、そうした題材が劇団として的確に「料理」され「盛りつけ」られ、さらにはお客さんの「食後」に対する心配りまで気が回っている、劇団と公演それぞれの完成度の高さに賛辞が集まりました。
こうして述べてみると、場合によっては、演劇経験が長くなければ、協働プロデュース対象劇団(いわゆる優秀劇団)には選出されないのではないか、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。作品を通じて表現された世界、それに生み出す劇団の有り様、そして演劇祭運営への参画、それらの総合的な議論のもとで、対象劇団は選定されます。何より、昨年度の優秀劇団であるコトリ会議の「桃の花を飾る」は、昨年「哲学的な世界観を舞台の作り方の工夫によって効果的にもたらしていた」と評価した点が間違っていなかった、と確信させられるような熟度を見出すことの出来る公演でした。何より、毎回3人の参加をいただき、制作者会議での見せた積極的リーダーシップにも、謝意を表したく存じます。
演劇は英語で「Play」と言います。そして祈りは「Pray」。多くの方が亡くなった悲しみの中で、浄土宗寺院の本堂において7劇団が駆け抜けたこの演劇祭は、彼の地に捧げられたある種の「祈り」であったと思っています。無論、そうした情緒的な側面だけでなく、動画の活用や写真を用いた丁寧な道案内など、スマートフォン時代に対応したウェブサイトの設計・運営、幟などの新たな広告宣伝媒体の企画開発など、劇団間が知恵を絞り、自らの舞台のための舞台の水準を高めていただいたこと、実に尊く、感謝の念に堪えません。
末筆ですが、改めて、多くの方々のご関心、ご参加、ご鑑賞、ご協力にお礼を申しあげます。中でも、劇評ブログを綴っていただいた皆さん、またハッシュタグ等を通じて盛り上げていただいたツイッターユーザーの皆さん、本当にありがとうございました。来年もまた、「むりやり堺筋線演劇祭」への参加等も含めて、関西小演劇界の発展に向けた工夫を、主催者も熟慮し、形にして参る所存です。昨年も用いた表現ですが、ぜひ、今後とも應典院(お寺)、應典院寺町倶楽部(NPO)、そしてシアトリカル應典院(劇場)、それぞれの立場に適切なかたちで、みなさまと関係を取り結んでいただければ、と願います。
應典院寺町倶楽部事務局長
山口 洋典