5月12日に幕を開けた應典院舞台芸術祭space×drama2016が、6月12日の無名劇団との協働プロデュース公演をもって無事に閉幕いたしました。幅広い方々のご関心を賜りましたこと、心よりお礼申しあげます。
そもそも本事業は、1997年に浄土宗應典院が再建された際、多様な表現の機会を創出するべくしてスタート。2003年度から演劇に焦点を当てた「演劇祭」としてリニューアルし、若手劇団の支援を掲げて、浄土宗應典院(劇場)・應典院寺町倶楽部(事務局)との協働プロデュース公演を担う、「三者協働プロデュース劇団(優秀劇団)」の選出を開始しました。
それ以降、劇団同士が切磋琢磨する機会を創出すべく、全劇団の代表者等が顔を合わせて議論する「制作者会議」を設置して、その年の運営のあり方を議論するのが特徴となり、今年度も制作者会議を経て、開催のおよそ半年前からどのような場とするのか検討してまいりました。その議論の結果が、ホットドッグ販売、劇団クイズ掲示、高校生無料キャンペーンをはじめとする、多彩な試みとして結実していたことはご承知のことと思います。
さて、2016年度の優秀劇団は、去る6月3日に2時間弱の時間をかけて、應典院寺町倶楽部の専門委員を中心とした選考会議により、選考対象となる3劇団の中から決定されました。選出にあたっては、作品のクオリティはもちろん、演劇祭への貢献度や、今後の将来性など、さまざまな点を考慮しながら、協働して作品づくりにあたるパートナーを選んでいます。3劇団の評価が大変拮抗しており、近年でも希に見る接戦となった今回の選考ですが、以下公演順に議論の一部を記しておきます。
劇団カメハウス『どろどろどるーんぷらすてぃっく』は、お寺の本堂で「あえて」なのか、「だからこそ」なのか、高校生の性と死という主題に果敢に挑戦したことに注目が集まりました。あえて今までの劇団の色を封印し、女優陣をはじめとする体当たりの演技に、本作にかける意気込みの切実さを感じつつ、一方で静かな会話シーンなどにおいて、演出面での精緻さをより充実させてほしいとの意見も出されました。
遊劇舞台二月病『LEFT〜榛名ベース到れる〜』は、実在の事件を題材にして当事者たちの無力さを作品に昇華させたこと、制作者会議やブログなどにおける一定のイニシアティブが評価されました。総合的に演出力の高さを感じさせつつ、しかし結局、出来る役者の感情表現に頼ってしまっているのではないか、身体的な迫力に欠けていたのではないか、などと課題も出されました。
劇団冷凍うさぎ『ペチカとエトランジェ』は、「わかりやすさ」に安易に媚びることなく独特の世界観を表現したこと、また完成度の高い美術などへの評価が発言されました。しかし、寓話として見せるには咀嚼が足りなかったのではないかとして、「秩序化されたカオス」と「意図せざる混乱」のちがいに目を向けるべき、との議論が交わされました。
選考会議の結果、6月12日のクロージングトークで発表させていただいたとおり、2016年度の優秀劇団に遊劇舞台二月病を選出いたしました。拮抗する3劇団のなかで、演出力が頭一つ分だけ勝っていると思われること、劇団としての立ち振る舞い、そして社会や他者へ向けるまなざしの貴重さに対する判断など、総合的な視座のもとでの選出となりました。
また、今回の特別招致劇団であるステージタイガーには、全編にわたってこの演劇祭への想いを感じさせる『ランニングホーム』を上演していただきました。演劇表現のみならず、さまざまな面にわたって若手劇団の模範となる姿を見せていただいたこと、また應典院舞台芸術祭に長年伴走していただいたことに、改めて深く感謝申し上げます。
2015年度の優秀劇団である無名劇団との協働プロデュース公演『無名稿 機械』は、前年度の文学シリーズをさらに洗練させ、陰鬱な世界観のなかに宗教的な輪廻感をも感じさせる、より深みのある作品づくりを実現。この1年の成長を確かに伝えるとともに、劇団としてさらに進化をつづける可能性を予感させました。
なにより、両劇団が制作者会議で見せた積極的なリーダーシップにも、謝意を表したく存じます。
すでに共通チラシなどでお伝えしております通り、今回をもって20年間継続して取り組んできたspace×dramaを終了し、舞台芸術祭の新たなかたちを模索していくこととなりました。
この20年間、演劇をめぐる環境も変容を続け、移り行く時代の価値観とのギャップは、space×dramaにおいても「参加劇団の激減」というかたちであらわれていました。「演劇をはじめとする舞台芸術がいかに創造的な表現を生み出し、社会と関係をむすぶことができるのか」。新たなかたちを追い求めながら、変わらぬ課題に取り組んでいく所存です。
2017年度の遊劇舞台二月病との協働プロデュース公演に関しては、単独開催にとどめることなく、應典院舞台芸術祭の20年の歩みを振り返り、さらに次の行く先を展望するような企画を検討しております。舞台芸術祭のみならず、浄土宗應典院、また應典院寺町倶楽部自体も今後リニューアルを重ねてまいりますが、引き続きご関心を寄せていただければ幸いに存じます。
末筆になりますが、改めて多くの方のご協力にお礼を申しあげます。5劇団の方々、劇評ブログを綴っていただいた方々、観劇にご来山いただいた方々、またSNSを通じて盛り上げていただいた方々、本当にありがとうございました。
應典院寺町倶楽部事務局長
秋田 光軌